3
保険会社の業績と市場の最新情報
損害率の推移
コンバインド・レシオの推移
保険会社の業績の要点
- 2023年第1四半期の主要取引信用保険会社の報告収益は、前年同期比で 10~15%増加した。これは、インフレ環境下での売上高増加と新規契約増加による追い風と、1月1日の保険契約更改時における高い契約更改率の両方を反映している。
- i) (地域差はあるが)世界経済における需要の鈍化、ii) (最近のインフレ水準を上回ってはいるが)インフレ率の横ばい、を背景に、 2023年には成長が減速すると予想される。
- 保険事故状況は徐々にではあるが、着実に2019年のパンデミック前の水準へと正常化しつつあり、保険会社の報告によると、2023年第1四半期の損害率は40~50%で、2022年同時期と比べ最大3分の1増加した。
- コンバインド・レシオも2020年第3四半期以来の水準に戻り、パンデミック以前の本来の水準である70~80%に戻りつつある。
- 2023年の企業倒産件数は、i) 金利上昇による信用状況の悪化、ii) (特に建設、小売、運輸セクターの)経済成長の鈍化により、多くの国でパンデミック前の水準を上回ると予測されている。
- 保険金支払件数は過去12ヵ月間増加の一途をたどっている。また、その性質上予測が困難な大型保険事故も増加しており、市場に影響を及ぼしている(例えば、2023年第1四半期中にブラジルで発生したロージャス・アメリカーナスの破産)。
- 2023年第1四半期の料率改定は前年同期比で1桁台前半で下回っており、保険料率は若干安定している。不測の事態が発生しない限り、現在の保険料率が短期的に続くと予想される。
- 地政学的緊張の高まりがボラティリティの原因になり得る一方で、世界的な緊縮経済対策は緩和策よりも速いペースで増加し続けており、世界の経済環境の不確実性を顕在化している。エーオンは2023年6月に最新の Political Risk Newsletter(ポリティカル・リスク・ニュースレター)を発行した。
保険補償水準の動向
- 保険会社の引受姿勢と引受余力は依然として高水準にあるものの、2023年第1四半期には横ばい傾向が見受けられた。これは、2022年第4四半期の一時的な与信限度額が2023年初めに失効したこと、多くの通貨が引受報告通貨であるユーロに対して下落したことに起因している。
- 保険会社は引き続き約75%の高水準の与信限度額承認率(承認額÷申請額)を記録しており、経済全体の先行指標とされる小売業や建設業を注視するなど、若干の選別はあるものの、世界的に前向きな引受姿勢を維持している。
- インフレ環境にもかかわらず、景気減速が予想され、全体的な引受要件の引き下げが見られるかもしれない。保険会社は顧客に与信限度額に余力を持たせることが通常であるものの、景気が悪化した場合、実質的なエクスポージャーを管理するため、与信限度額を顧客の実取引水準まで引き下げる場合が多い。
- 保険会社にとって、景気減速が引受姿勢や引受方法に影響を与えることは明らかである。流動性の引き締めにより、利益や手元資金の目減りにさらされている企業やセクターはマイナス影響を受け、サプライチェーンにおける企業に波及効果をもたらす可能性がある。
- 今後の保険会社の動きとして、案件によっては引受維持または強化を実現するため、より徹底したリスク・レビューを行い、最新の財務データの提出を要求することが想定される。
与信限度額の推移
取引信用保険 – 損害リスク¹
取引信用保険 – 保険料、支払保険金、損害率¹
ICISAとベルン・ユニオン(国際輸出信用保険機構)のデータ
国際信用保証保険協会 (ICISA)には現在、世界の民間取引信用保険会社の95%が加盟している。2022年のICISA¹の報告によると(括弧は前年の数値):
- 保険エクスポージャーは20%増の3兆2000億ユーロ(2兆7000億ユーロ)
- 計上収入保険料は13%増の78億ユーロ(69億ユーロ)
- 支払保険金は66%増の25億ユーロ(15億ユーロ)
- 損害率は30%(21%)に上昇
ベルン・ユニオン²は、世界の輸出信用・投資保険業界を代表する国際的な非営利団体である。ベルン・ユニオンの会員には、世界各国の政府系輸出信用機関、民間の信用保険会社、世界中の多国間機関などが含まれ、保険や保証の他、様々な直接金融商品を通じて、国際取引や国境を越えた投資を直接的・間接的に支援している。
- 2021年には、ICISAの会員により、世界の財とサービスの年間国際取引額の約14%にリスク補償を提供し、総額2兆6,000億ドルに達している。
- 短期輸出信用保険の伸長は公的保険会社が主に牽引しており、2021年には売上高に対する補償額が20%増加したのに対し、民間保険会社の補償額は前年比4%増加し、2019年の水準を上回った。
- 2021年の短期輸出信用保険の保険金支払額は引き続き減少し(19%減)、補償額はわずか25億ドルにとどまり、過去十数年間と比べて最も低い損害率を記録した。この結果は、2021年に一部の国で政府の支援措置が段階的に終了した後も、世界的な倒産件数や社債のデフォルトが低水準に抑えられていた傾向と合致している。